名曲納戸サポーターによる特別寄稿

#02 「ご本家周辺のナイアガラサウンド・アプローチ」

Text by 細田引水


 ナイアガラー上級者の方の間では周知の事実であるがゆえに、これまでありそうでなかった、もと暗し企画です。
 でも「RCA/AIRのカタログ」、「レアリティーズ」、「サムデイ」、「オーバーラップ」など昨年のリマスターラッシュで、改めて定番を聴き返した方も多いはず。小西康陽、曽加部恵一らのナイアガラ・チルドレンや、堂島孝平、キンモクセイらの“孫”が、ぞろぞろですが、今一度ナイアガラ・シスターズ&ブラザーを検証してみたいと思います。
(文中、敬称略)


■山下達郎

●「THIS COULD BE THE NIGHT」
●「2000トンの雨」
 本人によると「作家性が花開いた五目味の『ゴーアヘッド』」で、昔取った杵柄を出してきた。福生の大瀧宅で聴いたオリジナルEPや「スペクターレアマスターズ」(1976)の発売からとか、または吉田美奈子やシリア・ポールの「夢で逢えたら」(1976、1977)のレコーディングから、刺激を受けたのでしょうか。
 「ロンバケ」以降のナイアガラ・サウンド構築の片腕、ミキサー吉田保の存在も無視できない。当時、大瀧本人は笛吹銅次として試行錯誤している途中。

●「TOKYO'S A LONELY TOWN」
(1991)アルバム「Artisan」収録
 ニューヨーク、ロンドン、東京の3部作。カスタネットはないが、ニューヨーク〜ロンドンの経緯を知ってる方にはうれしい、スペクター・フォロワーズ。
 「ニューヨーク」はアンダース&ポンシアコンビがフィレス時代にスペクターに提出したデモが没にされたところをリーバー&ストラーに拾われ、レッドバードレーベルにからトレイドウインズ名義で自演、発表したバージョン。ビーチボーイズのパロディーでもある。
 「ロンドン」はデイブ・エドモンズがブライアン・ウィルソン、ブルース・ジョンストン他のコーラスを従えて制作したが、発表しそこなったオマージュ。
(家頁主からの註:画像は「LONDON'S A LONELY TOWN」収録のLP、「PEBBLES VOLUME4」)
 「東京」は1990年の新春放談で強引に制作宣言させられた因縁バージョン。歌詞の違いをチェックするのもたのしい。

●「ヘロン」
 「IS THIS WHAT I GET FOR LOVING YOU?」、「HERE I SIT」など末期のロネッツのサウンドを思い起こさせる。これほどカスタネットが聞こえる作品は他に思い出せない。テディーランダッツォなどのイタリアーノポップスに出典があるのでしょうか。


■竹内まりや

●「もう一度」
(1984)アルバム「VARIETY」収録
 「もし達郎がアレンジしていなかったらどんな曲になったのか」が想像がつかない夫唱婦随作品。当時まだ数少なかったフォーシーズンズ・アプローチ。「シェリー」以降、本邦初のフォーシーズンズ・アプローチである『ロンバケ』を継承している。

●「ふたりはステディー」
(1984)アルバム「VARIETY」収録
 まりや自身は当時、堀ちえみ、岡田有希子らにこの手の曲提供を多数していた。まあそれ自体が“'60Sのガールポップスを下敷にした歌謡曲”であるところの『風立ちぬ』フォロワーと言えるのでは。
 福永恵規「夏のイントロ」、中山美穂「色ホワイトブレンド/ときめきの季節」、森下恵里「ヘイベイビー」などに加え、お得意のハチロクタイプでは「リンダ」「ワンサイデッドラブ」「けんかをやめて」「約束」「ロンサムシーズン」「真冬のデイト」「とまどい」などがラインナップされる。

●「色ホワイトブレンド」
(1987)アルバム「REQUEST」収録
 「風立ちぬ」フォロワーというよりは、「不思議なピーチパイ」(1980年加藤和彦作)といろいろイメージがだぶる。中山美穂盤は清水信之編曲で、ピーチパイとは資生堂のCM曲という共通点がある。






■杉真理

●「渚のエンジェル」
(1982)アルバム「OVERLAP」収録
 大瀧が目をとめた「恋のかけひき」からトライアングルをへて、「オーバーラップ」で発表したのがこの曲。〜毎日がホットロッドパーティー〜の間奏前のフレーズに音壁が登場する。

●「マイリトルワールド」
(1989)アルバム「Ladies&Gentleman」収録
 パーカッションズは鳴っていないが、キーボードとドラムのエコー具合が、達郎で言えば「2000トンの雨」、元春で言えば「ドンナアンナ」の感じのミニ音壁。

●「僕のピンナップガール」
(1990)アルバム「WONDERFUL LIFE」収録
 モータウン調?アレンジが小西+高浪で最初期ピチカートの「アクションペインティング」の手触り。小西によればパイ時代のトニー・ハッチを狙ったとのこと。

●須藤薫への提供曲
「悲しみのジュークハウス」
(1981)アルバム「PARADISE TOUR」収録
 大サビ前の間奏から音壁に。編曲は松任谷正隆。この松任谷、吉田保のコンビが須藤薫の初期5枚のアルバムの路線を形作っていく。もちろん、この5枚に28曲を提供している杉の功績は無視できない。

●川島なお美への提供曲
「想い出のストロベリーフィールズ」
(1983)「SO LONG」収録
 杉は作曲・編曲・プロデュース。鈴木茂、林立夫参加。スピーチバルーン系、「ガラスの入江」「ガラス壜の中の船」タイプ。渡辺満里奈の「約束の場所まで」(1996年杉は編曲)につながる。この原稿を書き始めるまで知らなかったものの、伊能四郎さんのリストによると山口百恵がオリジナルか?で、作詞の横須賀恵って百恵?





■佐野元春

●アルバム「SOMEDAY」
(1982)
 アルバムごとにサウンドのテーマが変わる佐野が、トライアングル2を経て、3枚目のアルバムの「サムデイ」で打ち出したのは、ブルース・スプリングスティーン=ロイ・オービソンMEETSスペクター。
「麗しのドンナアンナ」は、カスタネットはないが、エコーたっぷりのバラード。アルバムではこれに続いて「サムデイ」が来る。
 「I'M IN BLUE」では、B面に裏返してイントロからのカスタネット連打となる。
 「ロックンロールナイト」、この曲も改めて聴くとスプリングスティーン。これは今回のリマスターCDで聴くと迫力が違う。


■伊藤銀次

●「トワイライトシンフォニー」
(1983)アルバム「STARDUST SYMPHONY65-83」収録
 大滝御大お気に入りのナンバーで、ネタはフォーシーズンズ。

●「フラワーインザレイン」
(1985)アルバム「PERSON TO PERSON」収録
 「DON'T ANSWER ME」系で「サムデイ」風。当時かなりの売れっ子アレンジャーだったはずだが、提供曲はほとんどチェックしていない。JIVE(1984年プロデュース)というグループは、すでにねのすけさんによって紹介されているが、女性アイドルものに掘出し物があったりして。


 ということで20年ぶりに気づいた曲もありました。こんなMDを、実は初めて作りました。みなさんは作っているのかな。



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