名曲納戸サポーターによる特別寄稿

#03
「ナイアガラ・ファンにおすすめの黒小皿 Barry Mann ソースがけ」前編

Text by Mann-ia


 ナイアガラ・ファンのみなさんは、2003年初頭の「新春放談」での、「大滝〔大瀧〕詠一= Carole King 派/山下達郎= Barry Mann 派」という話題をおぼえていらっしゃることでしょう。ご当人たちもそうした大雑把な色分けには否定的でしたが、たしかに、Barry Mann の音楽は、大滝氏が永年いつくしみ味わってこられた他の音楽とともに、氏の血となり肉となっていると考えるべきなのかもしれません。そして、そんな氏を通じて、ナイアガラ・ファンもまた、Barry Mann の音楽を玩味しうる舌をおぼえずして養っていらっしゃるやもしれません。そこで、本稿では、ナイアガラ・ファンに特におすすめしたいシングル盤を、Barry Mann の音源〔source〕をからめつつ、あれこれご紹介してまいります。



■Paul Petersen


“Hey There Beautiful”
 b/w “Where Is She”

 Paul Petersen といえば、『ナイアガラ・トライアングル』のコンセプト・モデルとなった『Teenage Triangle』の一角を占め、Mann や King の諸作品や、「FUN×4」の「ネタ」の1つとおぼしき「Polka Dots And Moonbeams」などをうたったティーン・アイドルとしてご記憶のナイアガラ・ファンも多いことでしょう。その Paul のシングル盤の中から、Mann がAB両面の作曲のみならずプロデュースにもあたった、興味深い1枚をまずはおすすめしましょう。

 1962年、Paul がうたった Mann 作品「My Dad」が全米チャート6位に達する大ヒットとなり、それに味をしめた Paul のスタッフは、同作者による同じくしっとりとしたバラード「Amy」を続けるも、これが65位と振るわず、反省。しかし、以後1年余り、試行錯誤を繰り返してはみたものの、Paul の人気はジリ貧で、反省撤回。こうして、1964年、「My Dad」成功の先例にならい、同曲の作者 Mann に、同系統の楽曲の作曲を今度はシングルの両面分、ついでにケチのつきっぱなしの Stu Phillips に代えて制作までも依頼して、本盤は相成ったのでした……とまあ、これはあくまで筆者の推測ですが、まんざら当たらずとも遠からず、冬来りなば春遠からじではないでしょうか。いや、反省なき人々に結局春は訪れなかったのですが、それでも、制作されたレコード自体は裏も表もない美質を備えていました。

 「ネタ」にうるさいナイアガラ・ファンならば、A面のサビの導入部、ストリングスの奏でるフレーズに、「A面で恋をして」のCパート(「恋の裏表を〜」)の匂いを一瞬嗅ぎとり、思わずニンマリとされるかもしれません。B面は、上述の私見を裏書きするかのように、エンディングなど、「My Dad」のそれと違和感なくつながるほどで、「隣の家のあの幼い少女はどこへ行ったの? 嗚呼、ボクのこの腕の中の17才のプリンセス、君があの少女なんだね…」なんぞという小っ恥ずかしい歌詞とあいまって、えもいわれぬ口福感にひたれること請け合いです。いずれにせよ、メロディー・タイプのナイアガラ・サウンドを嗜好される向きには、1皿まるごと、きっと味わいつくしていただけることでしょう。



■Adam Wade

“Why Do We Have To Wait So Long”
 b/w “Teenage Mona Lisa”

 謎の微笑を湛えた少女の髪型は、歌詞にそれと歌ってはいませんが、

 ♪Mona Lisa with a ponytail〜。

「風立ちぬ」に先んずること18年、あるいは「恋するふたり」から遡ること40年、全編これ「Venus In Blue Jeans」を下敷きにしたとおぼしきB面(作者の1人は、後に「Rhinestone Cowboy」を書いた Larry Weiss )に、口あんぐりになるやもしれません。
もちろん、パロディーはネタ元を知らぬ者にも楽しめるものであるべし、という大滝氏の鉄則レシピにも適った、絶品ともいうべき涼味あふれるそのサウンドは、ナイアガラ・ファンならずともきっとご満足いただけることでしょう。また、A面のMann作品も、アメリカン・ポップスにおけるキュイジーヌ・ボサ・ノヴァ流行の年にこしらえたものだけあって、ラテン・フレーヴァーで調えられた、これまた後味爽やかな一品となっており、裏表問わずご堪能いただけそうです。

 ところで、ヴォーカルの Adam Wade 、黒人だというのに、Johnny Mathis ばりに、どこをどう聴いても白人としか思えぬスムースな歌唱を聞かせます。AB両面が、人種横断的〔transracial〕な黒人シンガーの草分けの1人、Nat “King” Cole の代表曲、「Too Young」と「Mona Lisa」をもじったタイトルと内容になっているのは、そのためかもしれません。タイトルつながりということでは、「風立ちぬ」で、「Venus In Blue Jeans」にちなんでか、Frankie Avalon の「Venus」のコーラスの一節が引用されていたことなどが思い合わされます。また、ついでながら、「Venus In Blue Jeans」(Jack KellerとHoward Greenfield 共作)のデモ・レコードは Mann が吹き込んでおり、そんなところに彼と大滝氏との因縁めいたものも感じられます。


後編へ続く・・・


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