#05 FUN×4 その1

 アルバム「A LONG VACATION 」の中で、比較的肩の力の抜けた緩い作品のように聞こえる「FUN×4」、実は、あの「風立ちぬ」なみに「引用」や「下敷き」を多様した“こってりソング”なのです。

 まず、「FUN×4」でもっとも印象的な「♪Dan bi doo bi doo bi doo bi dan dan 〜」のコーラス。いわゆる「ビーチボーイズ的な」とか、「フォーシーズンズ的な」と評されたりもしますが、その出典はDOO-WOPです。ドゥーワップに造詣が深く、アメ車好きな大瀧さんは、キャディラックス(THE CADILLACS )の「ZOOM 」という曲の「♪Ban bi doo bi doo bi doo bi bow bow 」という音韻と旋律を引用してきているようです。

 アマチュア時代から大瀧さんと親交のあったシャネルズが、デビュー後の1980年5月に出したファースト・アルバム「Mr.ブラック」にも、この「ZOOM 」のカヴァーが収録されています。1981年3月にリリースの「A LONG VACATION」と、「Mr.ブラック」のレコーディング時期は、微妙に重なっているようにも思えます。もしかしたら、「FUN×4」の「♪Dan bi doo bi 〜」のコーラス全部をシャネルズが歌うという構想も、大瀧さんの頭の中にあったのかもしれません!?

 ところで、「FUN×4」との相似性に気づき、この「ZOOM」をカヴァーした女性ヴォーカルのバンドがいました。2001年に結成したアプリコッツの「スウィンギン!スマイリン!」というアルバムには、御本家のキャディラックスよりも、より「FUN×4」っぽい雰囲気のコーラスでカヴァーした「ZOOM」が収められています。
 実は、NHKテレビの番組案内スポットのBGMにこのアプリコッツ版の「ZOOM 」が起用され、放送されていた時期がありました。テレビから流れてきた、知るはずもない女性コーラスの「FUN×4」に、当時はビックリしたものです。

 女性ヴォーカルといえば、「FUN×4」の冒頭の「♪手ーにいれーてしまぁったーよ」の部分のメロディは、ドナ・リン(Donna Lynn )の歌うシングルB面曲「ビートルズ・カットのボーイ・フレンド」からの引用と思われます。この曲、A面の「夢みるビートルズ」の姉妹曲になっており、両曲には共通する短い間奏が入っています。このショートフレーズが、「FUN×4」では「♪夜を抱きしめーた」の後に16分音符で軽妙に刻まれる演奏「♪ッタカタカタカ、ッタカタカタカ」として引用され、登場しています。

 余談ですが、1989年にリリースされたアイドル伊藤美紀のシングル「RISAの片想い」のサビでは、まさに「FUN×4」の「♪手ーにいれーてしまぁったーよ」のメロディが登場していました。作曲者が、「FUN×4」と「ビートルズ・カットのボーイ・フレンド」の、どちらから影響を受けたのかは知る由もありません。ライター陣は、作詞・森雪之丞、作曲・小室和之、編曲・白井良明の皆さん。小室和之氏は当時、杉真理さんのバンド、BOXのメンバーでありました。

 話を元に戻して…。
 ビートルズに詳しい大瀧さんがこの「夢みるビートルズ/ビートルズ・カットのボーイ・フレンド」を知っていたのは当然として、ドナ・リンに特に親しみを感じた理由は、彼女が世に出した数少ない4曲のうちの1曲が、ボブ・クルーが手がけたダイアン・リネイの名曲である「ネイビー・ブルー」のカヴァーであったからかもしれません。
 フォー・シーズンズをプロデュースしたボブ・クルーと、ダイアン・リネイの「ネイビー・ブルー」については、当サイト内、ナイアガラサウンド研究会の「恋するカレン」および「一千一秒物語」の項をご参照していただいたうえで、若干の説明をつけ加えたいと思います。

 大瀧さんは、「FUN×4」でフォー・シーズンズ・サウンドをやりたかったんだそうです。それも、1962年夏から1964年初頭までのヴィー・ジェイ・レコード録音時代のサウンドで。

 フォー・シーズンズは1964年に、ビートルズの紹介用編集盤との抱き合わせで、レコード会社に「世紀の国際的対決 Beatles vs The Four Seasons 」なる珍盤をリリースされていました。おなじく1964年リリースの「夢みるビートルズ」(原題:I Had A Dream I Was A Beatle=私がビートルズだったら)の引用は、いわばフォー・シーズンズの当時の「嘆き節」を想像して体現してみせた、大瀧さんのシャレ心なのかもしれません。

 一方、「FUN×4」のタイトルは、ご存知のとおりビーチ・ボーイズの「Fun,Fun,Fun 」をもじったもの。フォー・シーズンズ・サウンドだからもう一つ「Fun 」を足してみたのかもしれません。フォー・シーズンズとビーチ・ボーイズは、大瀧さん自身の中では、東海岸と西海岸の「芯」ということで対等、なのだそうです。
 このビーチ・ボーイズも初期はほとんどドゥーワップとフォーフレッシュメンなどをやっていたということで、「FUN×4」のコーラスにドゥーワップの人気グループ、キャディラックスを据えた流れは納得です。

 では、このドゥーワップ曲「ZOOM 」とフォー・シーズンズとの共通項はといえば、大瀧さんとフォー・シーズンズとの出会いの曲である「シェリー」(Sherry)と「ZOOM 」のベースラインが同じ、つまりコード進行が「C→ Am→ F→ G 」であるということでしょうか。さらには、ヴィー・ジェイは1950年代の黒人音楽を代表するレーベルであったので、黒人層にも支持された「シェリー」はポップ・チャートのみならずR&Bチャートでも1位を獲得した、という背景も織り込まれ済みなのでしょう。

 フォー・シーズンズ、ビーチ・ボーイズ、ビートルズ、ドゥーワップの渦巻く関係も、大瀧さんの頭の中では曲作りの際にこれらの要素が混然一体となって、瞬く間に名曲のアイデアがまとまるのかもしれません。

 さて、下敷き曲が盛りだくさんの「FUN×4」ですが、続いての「♪コテージをさまよい出て星のふるStarry Starry Night、夜を抱きしめた」のフレーズについては、「次回につづく」です。


mail to : rentaro_ohtaki@yahoo.co.jp