#04 恋するカレン その1

 大滝さんは、橋幸夫の「スイム!スイム!スイム!」の解説中、吉田正の作曲について、こう評しています。

 吉田メロディの最大特徴は<イントロ>にあります。「有楽町で逢いましょう」に代表されるように、本体以上にイントロが印象的です。

 「君は天然色」や「さらばシベリア鉄道」など、印象的なイントロを有する曲が多い「ロングバケイション」の中でも、「恋するカレン」のイントロは最も美しく特徴的に思えます。
 一般的にイントロは、歌本体のエッセンスを感じさせるものが多いのですが、「恋するカレン」のイントロは、『歌メロ』とは完全に独立した旋律です。

 大滝さんは、このイントロで、どんなことを意図したのでしょうか?

 イントロの前半では、シンプルなピアノのフレーズと、アコースティックギターの16ビートのストロークが聴かれます。この部分は、フォー・シーズンズ(THE 4 SEASONS )の「DAWN」(邦題=悲しき朝やけ)のイントロをヒントにしたものではないでしょうか。この曲は彼らの代表曲の一つで、かつて「新春放談」でもかけられたものです。
 「DAWN」のイントロでは『Eadd9 − E』と上がっている旋律を、「恋するカレン」では『Esus4 − E』と下がる旋律に置き換えているようです。

 「恋するカレン」のイントロの後半、「ジャーンジャーン」という重みのある部分は、ウオーカー・ブラザーズ的だ、と評されることもあります。ウオーカー・ブラザーズ(THE WALKER BROTHERS )の 1966年のヒット曲「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」(邦題=太陽はもう輝かない)に通じるものがあるからでしょう。

 これら2曲「DAWN」、「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE」に共通するプロデューサーが、ボブ・クルーです。彼は、フォー・シーズンズを手がける中、「悲しきラグドール」「サイレンス・イズ・ゴールデン」「バイ・バイ・ベイビー」などの曲で、スペクター・フォロワーズ的なサウンド・アプローチを試みていました。
 特に「THE SUN AIN'T GONNA SHINE ANYMORE 」は、ボブ・クルーのスペクター・アプローチの究極作品として、フォー・シーズンズのメンバーであるフランキー・ヴァリ(FRANKIE VALLI )によって1965年に歌われたものでした。

 「君は天然色」「さらばシベリア鉄道」で、スペクター・サウンドに心酔するロイ・ウッドやジョー・ミークらの曲を引用し、オマージュを捧げている大滝さんは、「恋するカレン」では、その対象のひとりとしてボブ・クルーを据えているのではないか、そんな気がします。

 ところで、「恋するカレン」の原曲のひとつに、大滝さんがスラップ・スティックに提供した「海辺のジュリエット」が挙げられます。この曲の歌い出しは、こうです。
 ♪東の空〜 朝焼けーにー 霧が晴れたら 海はーコバルト

 大滝さんが「海辺のジュリエット」を「恋するカレン」に再生するときに、「悲しき朝やけ」、「太陽はもう輝かない」という2曲の、いわば『日の出つながり』を意識したのか偶然なのかは、定かでありません。
 しかし、『東の空〜 朝焼けーにー』という歌詞に、大滝さんがあのメロディをつけた時点から、「恋するカレン」の印象的なイントロが導かれるのは、必然だったのかもしれません。



mail to : rentaro_ohtaki@yahoo.co.jp