#03 「バチェラー・ガール」

 山下「『フィヨルドの少女』は『バチェラー・ガール』と同じ
    ように、既にほとんど出来上がっていたものですか」
 大滝「同時期です。『バチェラー・ガール』の方がもっと古い。
    3年にならんとしてたから」


 大滝さんは、もしかしたら「バチェラー・ガール」の歌詞を依頼するときに「キーワードは『ピアノ』で…」と指定したのかもしれません。
 「バチェラー・ガール」の歌い出しでは、「雨はこわれたピアノさ」と印象的な直喩の詞が歌われます。この部分のメロディ・ラインは、「銀色のジェット」のコーナーでもふれた、ブラインアン・ハイランドの名曲「 STAY AND LOVE ME ALL SUMMER 」の一節から一音だけ変えて引用されているようです。この「 STAY AND LOVE ME ALL SUMMER 」では、とりわけピアノが印象深く鳴っているのです。

 楽曲「バチェラー・ガール」の運命には、謎があります。アルバム「イーチタイム」に収録されなかったのは、なぜか。眠気を誘うメロディではありますが、シングルで出され、稲垣潤一にも歌われた名曲なのに。謎解きの鍵は「杏里が先か後か?」でしょうか…。

 ダイアナ・ロス&シュープリームスの有名曲「STOP IN THE NAME OF LOVE」を下敷きにして作られたと思われる「バチェラー・ガール」は、イーチタイムのレコーディング中に録られました。その前期は1983年の1〜3月、間に中断をはさみ後期は'83年9月〜'84年2月でした。
 時を同じくして1983年の11月に、林哲司が杏里に提供した「悲しみが止まらない」がリリースされました。この曲もまた、先ほどの「STOP IN THE NAME OF LOVE」をヒントに作られたもので、当時のヒット曲となりました。

 既に「バチェラー・ガール」をレコーディングした後に、ヒット中の「悲しみが止まらない」を聞いた大滝さんが苦笑いしつつ、アルバムから外し、「バチェラー・ガール」のリリース時期をずらしたのか。
 はたまた「悲しみが止まらない」をヒントに思いつき、「後期」'83年9月〜'84年2月に追加レコーディングしたのか。
 1986年の新春放談で交わされた冒頭のふたりの会話、そして、曲の録音順に並べ直したという「コンプリート・イーチタイム」の曲順から推察すると…。

 大滝さんは、また、もしかしたら「曲のタイトルは『Bachelor Girl』で…」とも指定したのかもしれません。
 クリフ・リチャードの歌う、「バチェラー・ボーイ」という曲があります。彼のバックで演奏し、「クリフ・リチャード&シャドウズ」として名を馳せたシャドウズ(THE SHADOWS)には、「Tシャツに口紅」の前奏にも引用された名曲「Theme For Young Lovers」もあります。同時期の一連のレコーディングの中で、シャドウズ→クリフ・リチャードという具合に、想起されて行ったのかもしれません。

 眠気を誘うメロディなんて書きましたが、私、いつの頃からか、この曲「バチェラー・ガール」が大好きになっていました。特に、国吉良一の奏でる間奏、後奏のシンセの味わいは、たまりません。名曲納戸サウンド・ライブラリーに登場した「幸せにさよなら」にも使ったくらいですから…。
 「バチェラー・ガール」タイプのリズムの曲達は、この後、Jポップにも後追いで登場したものです。



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