#03 一千一秒物語のときっめきっ

 ナイアガラの曲づくりにおいて、大滝詠一本人の作品は「曲先」、他歌手への提供曲は「詞先」だと、これまでに明かされています。「ロンバケ」から「イーチタイム」までの曲群は、まず大瀧さんがメロディをつくり、松本隆氏が後から歌詞をのせるという制作方法がとられる一方で、他アーチストへの提供曲では先に松本隆作による歌詞があり、そこに大瀧メロディがつけられる、という方式だったわけですね。

 たしかに、シングル「風立ちぬ」では、「ナイアガラ・詞先メロディ」の特徴的な旋律が聴かれます。しかし、アルバム「風立ちぬ」のA面の他の4曲は、全て「曲先」であったのではないかしらん?と思えてしまうのです。回り道のない完璧なメロディ、ポップスの王道パターンに明確に類型化される各曲の曲想、これらが「曲先」だと思わせる要素なのかもしれません。
 それほどまでにアルバム「風立ちぬ」の大瀧プロデュース作品群は「よく出来ている」と、つまり、言いたいのです。

 中でも特に、「一千一秒物語」のファンであるナイアガラーは多く、私もそのひとりです。
 ハープシコードのバッキング、心地よいシンガーズ・スリーのコーラス、ナイアガラサウンドでは珍しいグロッケン、ロンバケに限りなく近いカスタネットの鳴り、スネアを極力我慢しながらも肝で盛り上げるドラミングそしてベストワンな仕事をみせる松任谷正隆氏のストリングス……。シンプルでありながらリッチなサウンドに魅せられるばかりです。

 ストリングスといえば、曲中の「一千一秒 離さないでねー」のバックで聴かれるストリングスの旋律は、クリスタルズ(CRYSTALS)の名曲、「Then He Kissed Me」からの引用ですね。この旋律は、「カナリア諸島にて」の「あーのー焦げだしたー夏に酔いしれー」のバックでも演奏されています。本家スペクターサウンド、そして前田憲男氏、松任谷正隆氏と、三者それぞれの弦の調べを聴き比べてみても、おもしろいかもしれません。

 もちろん、サウンドだけでなくメロディも感涙ものの完成度を誇っているように思えます。
 エッセンスになっているのは、ロニー&ザ・デイトナス(RONNY & THE DAYTONAS)の「ビー・グッド・トゥ・ユア・ベイビー」(BE GOOD TO YOUR BABY)、「ホールド・ミー・ベイビー」(HOLD ME BABY)でしょうか。粗く例えれば、この2曲をエイヤッ!とひとまとめにして、曲調の骨格にしたのかもしれません。
 これらの曲が収録されている彼らのアルバム「sandy」のタイトル曲は、「Water Color」(ナイアガラトライアングル2)にも、つながっていくようなのですが、それについては「Water Colorに捧ぐ」のコーナーにてお話ししたいと思います。

 この他に、ダイアン・リネイ(DIANE RENAY)の「プリーズ・フォゲット・ミー」(PLEASE FORGET ME)の一部のメロディもエッセンスになっているような気がします。
 「一千一秒物語」は、「恋するカレン」タイプの曲だそうです。「恋するカレン」のエッセンスのひとつと考えられるフォーシーズンズは、ボブ・クリュー(BOB CREWE )がプロデュースしています。その彼が同様に手がけたダイアン・リネイを、大滝さんが素材として取り入れても、不思議ではないと思えるのです。

 「ビー・グッド・トゥ・ユア・ベイビー」「ホールド・ミー・ベイビー」そして「プリーズ・フォゲット・ミー」、これらの曲に共通するのは、8分音符でバッキングし続けるタイプのスペクター・フォロワー的な音づくり、でしょうか。

 ところで、前奏、間奏、エンディングで聴かれるシンガーズ・スリーのコーラスって、何て言ってるんでしょう?
 「パーシュバッ!」「パーシャバ」「フラーッシュバック!」等の諸説があるんですが、さて…。



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