#001 ナイアガラ・ストリングス研究


 大滝作品に関わった主なストリングス・アレンジャーとしては、
 (1)前田憲男
 (2)松任谷正隆
 (3)井上鑑
の皆さんが挙げられます。

(1)前田憲男
 「カナリア諸島」「Velvet Motel」「DREAM BOY」「冬のリヴィエラ」「熱き心に」などで聴かれるように、細かい譜割りのメロディを主旋律に見事にからめ、華麗に聴かせてくれます。けっしてボーカルのじゃまをしないのに、「ストリングスも歌っている」のが、特徴ではないでしょうか。
 前田氏のストリングス・アレンジには、いわゆる「手くせ」があって、旋律の出だし部分をたとえば「ファミレミファー」というように8分音符で動かします。ナイアガラでは、「夏の影が砂浜を急ぎ足に横切るとー」(カナリア諸島にて)のあたり、「冬のリヴィエラ」の前奏のストリングスの裏メロディ、「オーロラの空の下〜」(熱き心に)の部分などで、そのテクニックが聴かれます。

(2)松任谷正隆
 「恋するカレン」「A面で恋をして」「ハートじかけのオレンジ」「一千一秒物語」などを聴くと分かるように、白玉(2分音符や全音符)の旋律をユニゾンで鳴らし、ポップでドライな広がりを楽曲に加えてくれます。
 「あなただけ I LOVE YOU」をはじめ、「須藤薫」の諸作品でも、松任谷氏がストリングスアレンジを手がけた曲は、とてもドライ感のあるポップスになるから、不思議です。

 ナイアガラ作品を手がける際、松任谷氏は、重厚なギターやキーボードのリズム隊に隠れる中音域は思い切って省く一方で、高音域のカウンターラインや、「ココゾっ」というところで入る低音のハッタリにポイントを置き、キャッチーな仕上がりにしているようです。
 ピチカート奏法(弦を指ではじく)も、要所で巧みに取り入れています。

(3)井上 鑑
 「白い港」「風立ちぬ」をはじめ、「NIAGARA SONG BOOK」でもおなじみですが、中低音から高音までまさにバランスよく響かせます。
 ただし、コードの構成音が常に全部鳴ってるようなアレンジの場合、ややもすると重く、ウエットになりがちです。その完璧なアレンジ手法のおかげで、「探偵物語ストリングスバージョン=薬師丸ひろ子」なんていうのも、出来たりするわけですが…。
 ストリングスが重厚かつ豪華に鳴っていると気持ちよいのですが、リズムやボーカルのエコーもそのストリングスの塗り壁にまぎれてしまうために、ミックスの時にエコーがドンドン多くなる、のではないでしょうか。
 「ロング・バケイション」では、オケから感じる空間の広がりや、ボーカルのエコーの奥行き感に衝撃を受けましたが、イーチタイムは「もう、エコーの嵐」でした。
 バチェラーガールを初めて聴いたときには、「(エコーが)行くところまで行ったな」と思ったものでした(笑)。

 「幸せな結末」では、従来の重厚さとは少し違って、シンプルでスイートなアレンジで聴かせてくれましたね。

 一般にナイアガラにおける「井上鑑のストリングス・アレンジ」の初出は、「白い港」であるかのように認識されていますが、それよりも前に「ピンクレディー賛歌」でストリングス&ホーン・アレンジを担当していました。

 長くなりましたが、もう一息、他の皆さんにもふれてみます。

(4)服部克久
 歌謡曲の編曲をやりたいようにやると、「音楽畑 − ザ・ベストテン − ミュージックフェア」のサウンドになってしまうようですが、山下達郎、大滝詠一の両氏のように、「コウシテ、コウシテ」と細かい注文をつけると、そのとおりの手さばきを見せてくれる、ベテラン音楽家ですね。
 Ex.「快盗ルビィ」「煙が目にしみる」

(5)山下達郎
 天才的。
 後に松任谷正隆氏が引き継ぐこととなる「ナイアガラ・正統派ポップス系のストリングス」のイメージは、山下達郎の手腕によって築かれていた、といえるような気がします。
 Ex.「夢で逢えたら」「水彩画の町'78」

(6)吉野金次
 ナイアガラーにはおなじみのエンジニアでもある彼の、古典的な「乱れ髪」のストリングス・アレンジ。イントロの一節は、なんと本来エンディング部分であったものを、大滝詠一さんのアイデアで「つけ替えた」と近年、判明しました。

(7)荒川康男
 大瀧プロデュースによる太田裕美「恋のハーフ・ムーン」のB面、名曲「BLUE BABY BLUE」のストリングス・アレンジを担当しました。
「ロング・バケイション」「ナイアガラ・トライアングル2」では、ウッド・ベーシストスとして、レコーディングに参加しています。
 日本のトップ・ジャズベーシストである荒川氏に、近年、銀座のジャズ・クラブでお会いする機会に恵まれました。
 「BLUE BABY BLUE」のこともお尋ねしたのですが、一時期、歌謡曲等のアレンジもたくさん手がけ、ポップスのレコーディングにも多数参加していた、とのことで、さすがに覚えていらっしゃいませんでした。
 しかし、佐野元春のレコーディングに参加したときは、印象深かったと語っておられました。

 「BLUE BABY BLUE」の兄弟曲、西城秀樹の「ロンサム・シティー」(松本隆作詞、大瀧詠一作曲、鈴木茂編曲)のサウンドについては、また別の機会にて。



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