#06 研究篇 その5

 「とにかく、これはまあ、
      失敗したら引退する記念のシングルでしたからね
」(大滝)

 「幸せな結末」がリリースされた当時は、1985年の「B-EACH TIME LONG 」や「フィヨルドの少女」から12年ぶりの新曲、という形容がなされたものでした。この1985年には、再結成ライブで話題を呼んだ「THE HAPPYEND 」もリリースされました。

 「はっぴいえんどを再編してその後に終わるんであれば、はっぴいえんどという一番最初にやったグループ、あるいはそのときに作った自分のファースト・アルバムで終わるっていうのも、スジが通っているかなと」(大滝)

 これは、「幸せな結末」がヒットした当時、インタビューに答えた大滝さんのことばです。
 事実、曲のタイトルをはっぴいえんどを意味する「幸せな結末」に、ジャケットのデザインは「大瀧詠一(ファーストアルバム)」にちなんだものに、カップリング曲の「Happy Endで始めよう」も「はっぴいえんど」「はじめ=ファースト」のダブルミーニングに加え、ファースト・アルバム収録の「ウララカ」をしのばせており、大滝さんの語ったとおりのかたちになっています。

 「幸せな結末」の曲自体の中にも、そんな思いが込められている箇所があるような気がします。

 「踊り出す街に 二人の今を」は「ロニー、電話をよこして」、「夢に描いて 見つけた夜明け」は「メリーにことづけておくれ」なのかもしれない、と前回の「その4」で記しました。
 この「メリーにメッセージを伝えてよ」という曲について、エピソードを辿りますと…。

 大滝詠一トリビュートアルバム「ナイアガラで恋をして」初回盤には、「大瀧詠一・ファミリーツリー」が封入されています。これを見ると、はっぴいえんど結成直前の1969年当時、大滝さんは、中田佳彦とふたりで、アイズというグループを結成していました。
 「そうだ、目が2人とも細いからアイズにしょう」と決めたのだそうです。
 プロ・デビューを目指していたこの年の4月に、アイズの二人はTBSラジオのオーディション番組に出演しています。そこで歌ったのが、「メリーにメッセージを伝えてよ」だったのです。

 大滝さんが近年、くり返し語っていた台詞に「始まりは終わり、終わりは始まり」という一句がありました。
 また、「単なる時間軸とか連綿とつながっている概念だけじゃなくて、それだけ取り出したときの絶対時間というのがある」とも、「幸せな結末」リリース当時、語っていました。

 『最後』の曲になるかもしれない、と引退覚悟で発表した「幸せな結末」の中に、『最初』にプロを志して挑んだ「はっぴいえんど前夜」とも言える曲「メリーにことづけておくれ」が、忍び込ませてあるのでは…。
 これに気づかされてからは、ある種の感慨を抱いて「幸せな結末」を聴くようになりました。



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