#01 君は天然色 その1

 チューニングの「A」のピアノ音で始まるイントロ。各パートの楽器が各定位で鳴ります。「リズム隊は一発録りですよ!」と宣言しているかのようです。ここで鳴っている「ラテンパーカッション」が、本篇のどこで演奏されているか聴き込んでみるのも、また楽しみのひとつです。

 スティックによるカウントの後の「音壁」イントロは、「日本のポップス史上に残る発明」といえるものでした。ロンバケ・セッションに参加した難波弘之氏(キーボーディスト)の後の解説によると、ピアノパートの3連符の演奏は、両手を同じオクターブ内に持ってきて交互に弾く、というテクニックが駆使されているそうです。

 「く〜ちびるー」と歌い出す直前の「ジャン ジャン! ッジャ・ジャン ジャン! ッジャ ジャン ジャン」という部分は、ロイ・ウッド(ROY WOOD)の手による名曲「SEE MY BABY JIVE」からの引用と思われます。
 1981年の「ロンバケコンサート」で演奏された「君は天然色」では、大滝詠一氏が曲中の先ほどの部分で、ロイ・ウッドの真似をして「フウ!」(ちょっと裏声)と叫んだ、と伝えられています。
 「エレキ・ロック・バンドでスペクターサウンド・アプローチを試みる」という「君は天然色」のコンセプト自体も、ロイ・ウッドの功績から影響を受けているのかもしれません。

 歌い出しからのサビ前までのメロディや曲展開は「ゲーリー・ルイス&プレイボーイズ」(GARY LEWIS & THE PLAYBOYS)の、「涙のクラウン」(EVERYBDOY LOVES A CLOWN)をヒントにしている、というのは有名な話です。
 彼らは1966年の映画「OUT OF SIGHT」にて、「虹の彼方に」でおなじみの「アストロノウツ」(=大瀧氏推奨)と共演しています。
 GARY LEWIS & THE PLAYBOYSのレコードの演奏は、スペクターのセッション・メンバーによるものだそうで、やはり名曲は、大滝氏の耳にとまったのでしょう。

 「うれしい予感」を聴いたとき、「君は天然色の焼き直し?」と思われた方もいると思います。それは、「うれしい予感」の原曲、「COLD,COLD WINTER」(THE PIXIES THREE)のコード展開やメロディ構成が、「涙のクラウン」と似ているため、ではないでしょうか。

 サビの(おもいでは〜)は、「ハニカムズ」(THE HONEYCOMBS)の代表曲「COLOR SLIDE」から引用しているかと思われます。彼らをプロデュースした「ジョー・ミーク」(JOE MEEK)については、「さらばシベリア鉄道」のコーナーで、触れなくてはいけません。
 大滝詠一氏の最も得意な年代は、1962〜1963(大滝氏自身の中学2、3年にあたる時期)だそうですが、このハニカムズの曲も、それに隣接した1964年の作品です。
 余談ですが、熱烈なナイアガラ・フリークの多い「ひのえうま世代」と「その次のひつじ年生まれ」の人たちは、まさに同じ中学2、3年生の時代に「ロングバケイション」の洗礼を受けたものです。

 もうひとつ余談ですが、サビの部分のジェット・マシーンのようなサウンドをどうやって作ったかは「吉田保、KIMUKO佐々木、大野邦彦」の3氏しか知らない秘密です。

 間奏は、ごぞんじ「がんばれば愛」(大瀧詠一作曲)をそのまま持ってきています。ここの強引な転調は見事です。

 往時、「君は天然色」のインパクトは強烈でした。アナログの24トラック・レコーダー1台で作られたとは、信じられないウォール・オブ・サウンド。ドーリーミーな3連符サウンドは、日本ポップス界に多くのフォロワーズ楽曲を残したものです。



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